秋麗さやけし A
 



          




 秋はアメフトのみならず、様々に“スポーツの秋”でもあって。日頃は閑静な住宅地の中にあり高校ゆえに、基本的には静かな佇まい…の割に、誰かさんが在学中は頻繁に花火がドッカンドッカンと揚がっていたけれど。まあ、あれは特別な例外事項だったからさておいて。
(笑) 今日ばかりはご近所様にも前以ての通達が行き渡っている“公式”のお祭り騒ぎ。競技スタートのピストルの音、応援の歓声、軽快なB.G.M.がグラウンドを包む。クラス対抗の陸上競技を中心に、綱引きや紙風船をつぶし合う騎馬戦、仮装行列に借り物競走など、アトラクション系統の競技も結構充実した、泥門高校の体育祭が、九月の3連休のラストを飾って華々しくも開催されている。そういう校風なのか、進学の迫っている三年生であっても果敢に参加するのが伝統で、

  「進学クラスだからって舐めんなっ。」
  「何をっ! 身体なまってやがるクセによっ。大人しくガリ勉でもしてなっ!」

 ごくごく普通の徒競走でさえ、妙に敵愾心を露にし合って競うのは、別に日頃から忌み嫌い合っている間柄だからじゃあなく、此処ぞとばかりの“欲求不満解消”のためだったりするのがある意味で健全。(…そうかな?)翌日にはけろりと忘れているのが、これまた恒例なことなのだが。
「それでも就職クラスが勝つのが例年の常套なんですよね。」
 内定も取って解放感あふれる就職クラスの方がどうしても、気力も体力も上回るのか、

  「ここ数年はスポーツ推薦入学の連中も一緒くたですからな。」
  「それでも昨年は、進学クラスが優勝しましたよ?」
  「そうそう。ほら確か、蛭魔がいたクラスが。」

 ………そりゃあ何をおいても勝つだろう、と。先生方の談笑を漏れ聞いた在校生が乾いた笑みを浮かべつつ、根拠もないままにそう思ってしまったりするから、一体どんな伝説を残しているOBなのだか。
(笑)
「蛭魔さんて負けず嫌いだったしねvv
 穏当なことをほんわり言って にっこり笑う瀬那くんへ、雷門くんが…怪訝そうに目許を眇めて見せた。
「…お前、このVer.では そこまでの天然ぶりじゃあなかった筈だぞ?」
 あわわわ、すいませんです。ちーと間が空いてたもんで、筆者もちょっと混乱気味でございます。
(こらこら/苦笑)

  「3−A、ファイトーっ!」
  「負けるなっ! B組っ!」

 今年もまた、就職クラスと進学クラスの火花弾ける角突き合いは勃発中。しかも今年もまた、昨年と似たような展開になっており、大学への進学志望者だけが集まっている筈のクラスが妙に手強
ごわい。今も ほら…平均台やらサッカーゴール用のネットやら、跳び箱にハードル、走り高跳びのバーなどなどを飛んだりくぐったりの至難のコースを余裕で掻いくぐってゴールインした小さな選手へ、A組からの歓声が降りそそぐ。

  「やたっ! 小結くん、障害物走、一等っ!」
  「よーっしっ、でかしたっ!」

 何たって、元アメフト部の面々が固まって在籍しているから、これはなかなかに頼もしい。少々不良っぽい雰囲気がする顔触れもいるにもかかわらず、学校が指定してはいない模試まで受けてしっかり受験勉強を進めているらしく、学内考査の席次も順当に上昇中の顔触れなのだが、元はと言えばしっかり“体育会系”だから、スポーツの祭典で負ける訳には行かないというもの。負けん気が強いことも重なり、自分たち以外のクラスメートたちのひ弱い分までもと、ともすればムキになっての活躍ぶりで。そうなると、これもお祭りならではの精神高揚作用なのか、他の乗り気ではなかったような面々までが奮起するものだから、

  「午前の部、三年はA組がダントツでトップですな。」
  「昨年の奇跡が続いているんでしょうかね。」

 ちなみに、昨年の優勝クラスも…誰かさんがいたA組だったらしい。奇跡というより呪いかも知れません。
こらこら






            ◇



 走り込みなら現役さながらに毎日こなしているし、体力保持の方だって、悪魔のエキササイズメニューをこなすことで、下手をすれば一般高校生の平均値以上のそれを保ち続けている、腕にも脚にも自慢ありすぎな“受験生”たち。二人三脚ではそんな面々がそれぞれバラバラにひ弱そうな面子と組んで、それぞれの組で1位か2位という上位に食い込む健闘を見せたし、綱引きや棒倒し、騎馬戦といった体力系&格闘系の競技は、それこそ“任〜かせて♪”な顔触れぞろい。

  「十文字くんたちの組、無敵だねぇ。…あ、また倒した。」
  「お陰で力技系統はダントツだもんね、ライン4人が関わってるから。」

 砂ぼこりの舞うグラウンドでは、他の騎馬をバッタバッタと薙ぎ倒している とある組が一際目立っており、しまいには生き残った面子が必死の形相で逃げ回るほど。
「去年は蛭魔さんが乗っかってた騎馬が生き残ったんだよね、最後まで。」
 ………それって、誰が近寄れるのでしょうか。
(笑) 手段はどうあれ“最強無敵”だった彼だけに、体育祭の時だけは“同じクラスで良かった”と感謝されとったんでしょうな、きっと。
「そうでもなかったらしいっすよ?」
 え? なんで?
「勝てなかった場合、応援席へ戻るのがそりゃあもう怖かったそうです。」
 あ、そっか〜。
(苦笑) …などと、筆者までもがのんびりと観覧してしまっておりますが。汗だくになって戻ってくる勝者には、こちらも一致団結の証か、周到に準備してありましたる、冷たいおしぼりやスポーツドリンクが待っており、
「お疲れ〜vv
「カッコ良かったよvv
 日頃は“あんたたちって なんて乱暴者なの”とか言いたげにツンと澄ましているような女の子までが、気分の高揚も手伝って、可愛らしくお出迎えなんかしてくれたりするから…お祭りってホントに不思議だ、うんうん。古今東西、色々な祭事がありますが、それがなかなか廃れなかったり、廃れても語り継がれて残るのは、こんな風にコミュニティの団結力を強く堅く高めてた代物だったからなんでしょうね。

  「あ、十文字くん、肘んトコ擦りむいてるよ?」

 きっちり見つけた女子が手当てしなきゃと手を出しかかったが、
「あ…大丈夫だから、ちょっと勘弁な。」
 何だか妙な断り方を、それも本人の横合いから勝手に言ってのけた声があり。
「コージ?」
 ご本人としても、仰々しい手当てなんか要らなかったには違いないんだけれど。いやに素早く断ってくれたその上、そのまま腕を引いてどこぞへ向かおうとするお友達であり。
「???」
 状況が良く分からないまま黒木くんに引っ張られて到着したのは…部室前。そこには、

  「…え? 十文字くん、怪我しちゃったのっ?」

 こちらもどう呼び出されたのか、ジャージ姿の小早川くんが待っており。これって、もしかして もしかすると………vv
“こいつら、余計なことを〜〜〜。///////
 まあね。特別に仲のいいお友達な彼らには、真っ赤になって歯軋りしている“不器用くん”のささやかな恋心とやらも とうにバレバレだってもんでしょうよね。
(笑) 大変だ大変だとわたわた慌てている、小さなクラスメートくんへ、傍らから戸叶くんが差し出したのが…部室から持ち出した救急箱。ほれと顔の前へと進呈されて、それで何かしらの覚悟が決まったらしく。小さな拳をぐうに握って大きく頷き、患者さんへと向かい合うセナくんであり。

  「えと、まずは洗わなきゃね。部室に入ろ。」
  「いいって、こんくらい。」
  「良くないもんっ。」
  「あたた…☆」
  「ほらぁ〜〜〜。」
  「モロに傷の上を掴んでるからだっての。」
  「あっっ、ごめんなさい〜〜〜。///////

 い、粋な計らい…なんだろうか、これって。無事に手当てが済めば良いんですが。







            ◇



 各種競技も順調に進んで、お昼休みのエキビジション、クラス対抗の仮装行列や応援合戦では、意外な人が意外なお茶目を披露してくれたりすると、会場も大いに沸くもんで。………ここにアメフト部三年OBによる女装なんてものが挟まると、お約束ながら受けるのではなかろうかvv ああでも、それは昨年度に消化済みだったり…はしないか。ウチの場合、そこまでの遊び心がある悪魔さんではなかったようです。
(笑) さて、競技の方も残り少なくなって参りましたが、クラス別の獲得ポイントは。

  「今んとこ僅差で1位か。」

 力自慢たちが頑張ってはいるのだが、いかんせん、正統派種目にしてレース数も多い徒競走やリレーで他のクラスに水を空けられているから、予断を許さぬままであり、
「なんで全力疾走しねぇんだよ、セナ。」
 得点の稼ぎ頭である黒木くんに、こっそりながら詰め寄られ、困ったように肩をすぼめて“はやや…”と焦る小さな韋駄天くん。
「だって、何だか…。だって、あのその。」
 きゅうてぃ・はにいの主題歌みたいだが、そんなふざけた言い訳をしたセナくんでは勿論なくて。
(笑)
「フィールド以外で、しかもアイシールドを付けてない時は、全速力で走っちゃいけないっていうのが、何だか習慣になっちゃってるから…。」
 そもそもは。陸上競技としての正規の距離である“100m”を、トップスピードのままに走り通せるスタミナがなかったものだから。あれだけの速さでありながら記録は残せず、それゆえに目立たないまま一般生徒の中に埋没していたセナであり。ひょんなことから金髪の悪魔さんに見初められ、その俊足に更なるスタミナやなお鋭い切り返しというますますの磨きがかけられたは良かったが、

  『いいか、お前がアイシールド21だとバレたら、
   他の部からの引き合いが山のように降りかかるに違いない。』

 気の弱い人性のお前には、到底断り切れまい。だから絶対に素性は明かすな、誰が相手でもバラすんじゃねぇぞと。一番最初に蛭魔さんから釘を刺されたことが、しっかと刷り込まれたその結果。体育祭は勿論のこと、体育の授業などでも無難な走り方しか披露せずにいた彼だったから、世間一般の生徒たちには…途轍もない俊足の持ち主だという真実は未だに内緒のままであり。
「去年もさんざんで、それで寸劇の主役なんかやらされる羽目にもなったし。」
 あれはセナくんだけのせいでもなかったろうけれど…女子が勝ちまくったのを相殺して余るほど、男子の面々が悲惨な成績を残したため、最下位という結果に終わったことから。女子の希望を通されてのちょっぴり趣味に走った“シンデレラ”を、文化祭にて上演することと相成ったのが去年のお話。
「でもな〜。もうそんな風な恐れってか、勧誘なんてのは かからんだろうによ。」
 最終学年で部活からはとうに引退してもいる。凄いと注目されるのが身を擦り減らすほどにも苦手だって訳でもなかろうに、何とかならんのかと、こちらも食い下がる黒木くん。実は…B組にいけすかない喧嘩相手がいるのだそうで。後で筆者がモン太くんにこそりと訊いたところが、
『入学前から顔を合わせると会釈し合う程度の悪仲間だったらしいのが、黒木たちはアメフトで人気がぐんぐんと上がってっちゃったでしょう? それが面白くないらしくて、何かって言うと“自分の方が上だ”っていう難癖つけて来てたらしくて。』
 ふむふむ。
『まあ、これまでは大したこともないもんばっかだったんで、その場での噛みつき合い程度で済んでたらしいんだけど、この体育祭を最終決戦と勝手に向こうが構えたらしくてサ。』
 売られた喧嘩をついつい買ってしまったそんなせいで、こちらも“絶対に負けたくないぞ”と闘志満々な黒木くんであるらしく。せっかくぶっちぎりで勝てる駒がありながら、発動させられない制限がかかっているのへ、どうしてくれようかと渋面を作る彼と睨めっこになってしまったセナくんへ、
「次って、お前の出る種目だろうが。」
 入場門まで集まれと呼び出しがかかっているぞと、ナイスな助け舟が出されたため、
「行って来ま〜す。」
 役員席や放送席のあるテントへ向かってわたわたと駆け出す、こんな時だけ素早い逃げ足の小さな背中を、しょうことなしに見送った。
「勿体ねぇよな〜〜〜。」
「ま〜だ言ってんのかよ。」
「だってよぉ。」
 助け舟を出してやることで人を悪役にして、自分はちゃっかり点数を稼ぎよってからにと。肘に巻かれた大仰な包帯を、結局は大事そうにしている純情なお友達へ、恨めしげなお顔を隠しもしない黒木くんだったが、ハタと何かに気がついた模様。

  「…そか。逃げ足は速いって知れてるんだ、あいつ。」
  「???」

 きょとんとしている十文字くんをその場に残して、ふふふと低く笑って足早に立ち去る彼であり。………何か思いつきましたね、参謀殿。
(苦笑)







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